

土田酒造は、1907年に群馬県沼田市で創業、その後1992年から群馬県川場村にて、日本酒を造り続けています。2008年、土田祐士さんが6代目の社長に就任。マーケットの縮小に危機感を持った土田さんは、独自の価値を確立するため、2017年から、なるべく磨いていない群馬県産の食用米を使用し、添加物を完全に止め、蔵や酒造りの道具などに棲みつく微生物を活かした生酛造りに切り替えます。自然に委ねた発酵のため、出来上がった酒は毎回、驚きのある美味しさが感じられるものになりました。
こうして生まれた新しい日本酒にふさわしいイメージを打ち出すため、ラベルデザインを始めとしたブランドコミュニケーションの刷新にも着手しました。そして、ロンドンのインバイブ・ライブというアルコールの展示会に出品したことがきっかけで出会った人たちの紹介が繋がり、デザイナーの東川裕子さんとめぐり会います。
初めは会社案内のパンフレットを企画しましたが、それぞれ強い個性を持つ酒をまとめることが難しいため、まずはその時にやっているホットな情報をお伝えする季刊誌の作成や、「シン・ツチダ」という新しい土田酒造を代表する日本酒のラベルデザインから始めることになりました。そして半年以上かけて、硬い土に酒を振りかけている「土」の象形文字をモチーフにした現在のシンボルが完成し、ラベルだけでなく土田酒造全体のブランドロゴとして使用されるようになります。多岐に渡る商品には、余白を活かし、凛として無限の可能性を追求する土田酒造らしさを表現しつつ、それぞれの日本酒が持つ特徴が伝わるデザインが施されています。東川さんはまた、日本酒以外の一部商品のラベルデザインや、ウェブサイト、酒蔵見学で来訪者が目にする空間や直営店のデザイン監修も手掛けています。
ものづくりをしている自分自身が語れる内容を持ち、それをデザイナーに伝え、丁寧に話し合いを重ねることで、良いデザインにつながっていくのだと、土田さんは実感したそうです。ここまで様々な実験を重ね新しい日本酒の可能性を追求してきた土田さんですが、今後はそれらをまとめていくことも視野に入れ、より強いブランドを作り上げていきたいと語ります。