昭和29年に国民保養温泉地の第一号に指定された四万温泉。東京駅からの直通バスも通り、昔から湯治場として人気を得てきた場所ですが、団体客の減少やコロナ禍の影響等により、温泉の良さだけではなく新たな価値を付加することが求められています。1964年に宿坊として開業し「つるや」の屋号で親の代から温泉宿を営んできた関良則さん。彼は現在、株式会社エスアールケイ代表として、温泉旅館「鹿覗きの湯 つるや」、プライベートコテージ「シマブルー」、アートを常設し比較的安価で泊まれるSHIN湯治「ルルド」、全室に個別の露天風呂がある「叶 KANOUYA 四万温泉」、飲食やギャラリーからなる文化施設「OUKETSU TERRACE」を経営し「日本の観光を変えたい」と目を輝かせています。
四万温泉がある中之条町では2007年より「中之条ビエンナーレ」という国際芸術祭を開催しています。町が主催となり、町内の温泉地や廃校、酒蔵などに147組(2025年開催時)のアーティストが作品を展示。全会場入場者累計は50万人におよぶ人気イベントです。特徴の一つとして、既存の作品が展示されるのではなく、アーティストが町内に滞在し制作するアーティスト・イン・レジデンスを行っていることが挙げられます。滞在制作をきっかけに中之条町に移住するアーティストも多く、自身でギャラリー「gallery.studio.cafe newroll」「藝術中之条」やイベント「Art Fair NAKANOJO」を運営する彫刻家の西島雄志さんも、移住アーティストの一人です。
「中之条ビエンナーレ」2021年開催時、旧五反田学校で展示されていた西島雄志さんによる彫刻作品《吉祥 kichi-shou》を見た関さんは、その場で「この作品を購入して、四万温泉に来たお客さんがいつでも見られるようにしたい」と思ったそうです。直接西島さんと掛け合い、廃業したホテルをリノベーションし2023年に営業を始めたSHIN湯治「ルルド」にこの作品を常設しました。作品に合わせて室内の壁を黒く塗ったことで、鳳凰の姿をした《吉祥 kichi-shou》はより光り輝いて見えて、宿泊客を楽しませています。中之条ビエンナーレ開催期間には、宿全体の客数も1割ほど増えるそうです。
SHIN湯治「ルルド」には西島さんの作品の他にも、中之条町で石彫刻を行う齋木三男さんの作品や、沼田市の吉澤指物店による壁飾り(スパルーム宿泊者のみ鑑賞可能)が常設されており、アートホテルという認識もされています。遠方の有名なアーティストの作品を飾るのではなく、地元に縁のあるやる気のあるアーティストの作品を購入し常設することで、四万温泉や中之条町に良い循環が生まれることを期待しています。
現在は、2024年開業の「叶 KANOUYA 四万温泉」や、温泉地からは少し離れた場所にある甌穴(川の流れで削られた河床の穴が見られる観光地)に隣接する「OUKETSU TERRACE」内のギャラリーにおいても、西島雄志さんの作品を見ることができます。ギャラリーは、作品のために建物を新設しました。アートの購入は補助金対象にならないものの、場所作りには観光庁の高付加価値化支援等を受けたそうです。関さんは「四万温泉のこれからは厳しい。一般的に、経営者の子どもは家業を継ぎたがらない。だったら地域外の人が「ここでやってみたい」と思える場所にしたい。温泉と自然はあるから、何かを考えてビジネスができれば良い。もっとアートが見られるホテルがあっても良い」と語りました。
・アートホテルという認知により、芸術祭が行われている期間に利用客が増加
・芸術祭が行われていない時期も常にアート作品を見ることができる
・利用客の満足度向上
・ギャラリーを通さず、旅館業者とアーティストが直接やり取りすることで信頼感を生む